プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔

◇◇◇

その日は大半を自分の部屋で過ごしていた。
不用意にベルを鳴らして雪さんを呼びつけ、彼女の手を煩わせることに気が引けたこともあるし、それ以上に三年にもわたって身体に染み付いた“引きこもり”の血がうっかり顔を出したと言ったほうが正解かもしれない。

お昼や夕食は雪さんがここへ運んでくれたことにより、トイレ以外はまさに引きこもり。
当然ながらお父さんと清美おばさんがかわるがわる顔を出したことは言うまでもない。

ところがさすがにお風呂に入るという時間になって、雪さんを呼ばないわけにもいかなくなった。
トイレは私の部屋がある二階にあり比較的近いからいいものの、お風呂は一階だ。
階段を片足で降りられる自信は私にはない。

今でこそジョギングをしているが、それまでの運動不足の年季の入りようといったら……。

とにかく私の運動能力で片足ケンケンでお風呂までたどり着くとは思えない。
松葉杖を用意してもらえばよかったと今さらながら悔やんだ。

仕方なしに呼び鈴を持ち、チリンと一回振ってみる。

豪邸とまではいかないにしろ、雪さんを含めた五人が悠々と過ごせる家の中でこんな小さな鈴の音を雪さんは聞こえるんだろうかという疑いは、今まさに晴れた。
意外にも澄んだ音色。
涼やかな高い音が響いた。

ところが数分待ってみても、雪さんは現れない。

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