#恋·恋
『降ろして』
肩をバンバン叩きジタバタする。
『早く降ろして』
怒りを込めた口調にも動じず、スタスタと歩き部屋を出た。
『聞いてんの?降ろして』
「………」
さっきからシカトばかりだ。
私を抱えたまま、歩く蓮。
彼が歩く度に、柑橘系の香りと煙草の匂いが私の鼻を掠める。
VIPルームへ続く長い廊下を抜けると、満島さんがいた。
「……っ、!!」
満島さんは私たちを見た途端、目を大きく見開いた。
蓮は満島さんに目もくれずに通り過ぎ、フロアに足を踏み入れた。
「!!うそ、オーナーが女を抱えてる…」
一人の蝶がそう発すると会場がざわめきだした。
「え…!?ちょっとどういう事!?」
『椿さん助けて下さい』
背後から聞き慣れた声に振り返ると、椿さんが大きな目を見開いてクラッチバッグで口元を隠していた。
驚いた顔も綺麗だ。
「コイツの私物を全て持ってこい」
「かしこまりました」
蓮の言葉に椿さんは即返事をし、私に背を向けた。
は…?
『満島さん!』
今度は満島さんに助けを求める。
「ひとみちゃん。いってらっしゃい♪」
『………』
そんな…
誰も助けてくれないのか。
周囲の視線に目もくれず蓮は私を抱えたまま、スタスタと店を出た。