まさか…結婚サギ?
二軒目は閑静な住宅街の一戸建て。
車庫も2台あり、リモコンシャッターでセキュリティもしっかり。外観がまるでアンの家のようで素敵である。
もちろん中身も女の子なら憧れるカントリーテイストで素敵だった。
三軒目も一戸建て。
家はシンプルで機能的な雰囲気で素敵だった。

「由梨ちゃんはどれが良かった?」
「どれも、素敵でしたけど」
「どれもって、さすがに家を3つは要らないでしょ」
くすっと笑われて由梨は戸惑った。
「あら、もしかしてわかってなかった?由梨ちゃんと貴哉の新居を探してたの。佐塚が建てて、connoが持ってる物の中から私が見繕ってきたんだけど」

「まぁ、家は簡単には決められないか。もう一回見たかったらこいつに言って」
蒼空は名刺を由梨と椿に手渡した。

市原 蒼空とある。どうやら佐塚建設の一級建築士らしい
「市原です」

椿と並ぶと、蒼空の方が低くてまるで女王様と下僕のようだ。態度もそうであるが…。

「あのね、由梨ちゃん。貴哉も一応紺野家の息子だから、いつかばれちゃうと想うのよね。だからね、新居はやっぱりそれなりの所じゃないとね。うちに住んでくれたらうれしいけど、貴哉はそれは嫌だというし。ね、だから私たちの我が儘で悪いけど、椿ちゃんが勧める所から選んで、ね?」
と麻里絵に言われて、由梨は頷くしかなかった。

(新居!…私と、貴哉さんの新居?)

「また、いくつか探しておくわ」
椿がにこやかに言って、紺野家まで送ってくれた。どうやら紺野家から椿の選んだ新居はあまり遠くないようだ。

「あの、麻里絵さん」
「なあに?」
「私、まだ結婚とか」
「そうね、まだ結婚式もしてなかったのよね。でもね、新しい家とか、ワクワクしない?」
楽しそうに言われて、由梨は曖昧に笑った。

きつく出られたら、反抗できそう(?)なのに。楽しそうにされたら、断りにくい。

由梨は出掛けていた貴哉が帰ってくるまで、新居の候補をまとめた紙を前に、麻里絵と語っていた。

貴哉の車で送ってもらいながら
「あの、貴哉さん。今日麻里絵さんと新居を…見に行ったんですけど…。私たち、まだ結婚とかまだですし」
「あー、ゴメンね。由梨、戸惑うよな?」
と貴哉がいい、由梨はうなずいた。
「でもさ、早くに見てじっくり選んでも悪くないと思わない?住むところは重要だと思うし。それに、母もすっかり楽しんでるから、由梨は大変かもだけど、好きなの選んでみて?今度は俺も行くから」
「選ぶ…」
「うん、今の俺の部屋に二人は無理だろ?」
「…そうですね…」

結婚を前提に、付き合うって…こんなに全て結婚に向けて一直線なものなのかな…。
由梨は流れ行く景色を見ながら、後ろの麻里絵が由梨の為に買った品々をちらりと見た。

(けど、もはや…逃げ場はない?)
逃げるつもりはないけれど、気がつけば囲い込まれている。

いつものように、貴哉はきちんと夕食に間に合う時間に由梨を送ると、走り去っていった。
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