嘘つき天使へ、愛をこめて
一通り洗い物を終わり、柊真が紅茶を用意すると言うので、流れであたしも手伝う。
六人分のマグカップを棚から取り出していると、なにやら忙しなく階段を降りてくる音が聞こえた。
かと思うと、
ばんっ!
叩くように扉が開けられ、あたしは驚いて危うくマグカップを落としそうになる。
見れば、そこにはいつになく厳しい表情をした櫂の姿。
のんびりと和やかムードだった部屋に緊張が走るのが分かった。
「緊急事態だ、雅」
櫂はちらりとあたしを見てから、さっきまで雑誌に目を落としていた雅へと詰め寄る。
「今しがた連絡が入った。ガキ共が数名拉致られたらしい」
櫂の言う“ガキ共”が、下っ端の人達ことを指すのはこれまで何度か聞いていたので知っていた。
雅の顔が僅かに曇る。
玲汰も目を覚まし、唯織と並んで厳しい表情で櫂の言葉を聞いていた。
「……どっちだ?」
「……厄介なことに、親の方だ。というのも、今日の午後六時半、谷津白木街にて予定外の抗争があったらしい。恐らくうちのガキ共と向こうの幹部野郎が出くわしちまったんだろうが、運の悪いことに」
「向こうは連れがいたんだな」
「ご名答。うちの奴らも弱いわけじゃないが向こうは幹部に下っ端共もついてやがる。まともに相手なんか出来やしない」
あたしは話についていけず、柊真を見た。
柊真も皆と同じく険しい顔をしていたけれど、あたしの視線に気づくとふと表情を和らげる。
「心配しなくていい。こんなのは日常茶飯事だ。まあでも、今回は少し厄介かもな」
「……あの、親っていうのは前に言ってた華鋼っていう族のこと?」
「ああ、ここらでも特に谷津白木街は奴らの溜まり場だ。だから、出来る限り近づくなって言っていたはずなんだが」
諦めを交えた様子で柊真は肩を竦めた。