嘘つき天使へ、愛をこめて
「どういうことだ、雅」
「……大切だと思える人が出来たから」
拾い上げた林檎についたホコリを払って、テレビ台の上へ置く。
「俺は、サリを離したくない。サリには手術を受けてもらいます。無理矢理にでも」
「でも、お前……」
「忘れてもいい。たとえ俺のことを忘れても、俺がサリを覚えてる。大丈夫です、もう一度好きになってもらうだけの話だから。完全に消えるわけじゃない」
時間はかかるかもしれないけれど、俺はサリを失うよりも、そっちを選ぶ。
リスクはあるだろう。
もう時期が時期だ。
医者ももう遅いかもしれないと言っていた。
それでも、諦めたくない。
俺はそういう当たり前の未来を望むために、サリの手を今離すわけにはいかない。
「俺は、総長やめて働きます。将来的なことを考えて、高校は辞めないけど。でも、今まで族頭として過ごしていた時間を全てバイトに費やすことにする。サリの手術代とか、入院費とか、少しでも稼ぎたいし」
「雅……」
あいつらは俺がいなくても平気だ。
俺よりもずっとしっかりしている奴らばかりだから、きっと。
後継は、もちろん柊真。
柊真ならば今よりももっと温かい胡蝶蘭を作っていけると、俺は確信できる。
「いいんです、大翔さん。俺は今までずっと、色んな事を諦めてきた。あいつらと出逢ってからも、過去は捨てきれなくて、いつも自分を隠して過ごしてきた。でも、もう、だめだ。俺はサリに出逢っちまったから」
サリの髪へ触れる。
ライトブラウンの柔らかい髪。
陶器のような白い肌。
華奢で小さな身体。
見るたびに愛おしいと思う。
憎まれ口ですら、サリらしいなと笑ってしまえるほど、俺はサリが好きだ。
きっと最初から。
……俺はサリに惹かれていたんだ。