嘘つき天使へ、愛をこめて
「だからね、だからこそ、俺はサリと生きていきたいんだって気づけた。後悔に後悔をしたって、結局それは過去なんだよ。悔やむことしか出来ない。変えられない」
雅の冷たい両手が、あたしの頬を包み込む。
その瞳から一滴の涙が零れ落ちて、あたしの手の甲へと広がった。
「前にサリは俺に言ったよね。なんで争う必要があるのって」
あたしは小さく頷く。
「その理由を、俺もずっと考えてきた。あいつらがいるのに、どうして過去と孤独から抜け出せないのか。なぜ、人同士が傷つけあう必要があるのか」
「……うん」
辛い過去と孤独は強く結びついている。
雅は記憶を捨てきれなかった。
傷ついた心を埋めようと必死になったけれど、全てを忘れることなんて出来なかった。
「今でも、わからない。自信なんかないんだよ。俺には最初から族を背負うほどの余裕なんてこれっぽっちもなかった」
雅は自嘲気味に零す。
申し訳なさそうな顔で、なにかに怯えるような顔で、怖々とあたしの頬を伝った涙を指の腹で拭った。
「……それでも、誰かの救いになりたかった。こんな俺でも、胡蝶蘭という場所でなら……あいつらと一緒なら、俺と同じように痛みを抱える奴に手を伸ばせるって思ったから」
過去の話をしてくれた時の雅が脳裏に過ぎる。
その時の雅は、思わず抱き寄せたくなるほどに本当に小さく…小さくみえた。
雅はずっと無理を――我慢をしてきたんだ。
自分の居場所を見つけたと同時に、そこが大切な場所だと気づいてしまったから。