(A) of Hearts
『おはよ。忘れちゃった? 昨日会ったじゃん』
「も、申し訳ございませんっ」
誰よ!?
昨日会った人を頭の中であれこれ思い出していく。
『まだわからない?』
待って。
この軽さは、ひょっとして?
いやそうに違いない。
「——し、失礼いたしました前田さま!! おはようございます…っ!」
なにこれビックリ。
朝からこのテンションってありなの?
『驚いた? 驚くよね普通。ごめんごめん。タカちゃんから番号聞いたんだ』
タカちゃんって誰!
いろいろぶっ飛んでるよ!?
『あ、タカちゃんって、うちの秘書ね』
「ああ、高嶋さん…っ!」
『そうそうタカちゃん』
「昨日は大変お世話になりました」
『だよね。彼女からあれこれ聞いちゃってさ? それもあるんだけれど、なんかキミってヒロのドストライクでさ』
「——ヒロ?」
『キミがついてる上司の芦沢拓武ね。だから心配になっちゃってさあ。こうやって連絡したのは老婆心が働いちゃったわけ。ヒロが結婚近いの知ってるっしょ??』
な?
「あの。失礼ですけれど。いえ、失礼を承知で言わせてください。そのためだけに、わざわざ電話を?」
『そう。さっきヒロにも電話したら、いまキミいないって言うじゃん。まるで同じ部屋に泊まったみたいに』
「同じ部屋でしたから」
『……おっと』
「ですが婚約者の方にお断りの連絡も入れましたし、ちょっとした手違いがあっただけです。理由をお聞きになれば前田さまにもご理解いただけると思いますけれど」
『お前、秘書失格だろ。先方に気を悪くさせてどうするんだ? どんな相手だろうと話したいことがあるのなら、相手をうまく丸め聞き入れながら意見を言え』
「申し訳ございません」
なによ。
もう。
わざわざこんな朝っぱらから、そんなプライベートのしょうもないことで電話なんてしてくるからじゃん。