テンポラリーラブ物語

 閉店まであと10分というときだった。

 店の前に中の様子を不自然に覗き込むメガネを掛けた男が目につく。

 ちょうど後ろ向きになっていたなゆみの姿を見つけたとたん、目の動きが止まった。

 ジンジャ!

 氷室は心の中でその言葉を響き渡らせた。

 なゆみが振り向き、目の前のジンジャに目を丸くする。

 そしてはちきれんばかりの笑顔を一杯向けて、喜び勇んで近づいた。

「ジンジャ、早速来てくれたんだ。今日はクラス取ってるの?」

「ああ、多分同じクラスだと思う。ショーンのクラス」

「同じ、同じ。また一緒だね。坂井さんも来るの?」

「うん」

「そっか。今日も楽しい授業になるね」

「それじゃ先に行ってる。また後でな」

「わざわざ来てくれてありがとう」

 なゆみは小さく遠慮がちに手を振っていた。

 それを見ていたミナはそっと近寄って目ざとく「今の人誰?」と聞いている。

 英会話学校で一緒にクラスをとってる人と簡単に説明しているが、なゆみの嬉しそうな顔は惚れているとばらしているようなものだった。

 氷室は気にしないフリをしたものの、急に立ち上がりその勢いでトイレへと向かった。

 なぜか暫くその場所から遠ざかりたくて、足が勝手に動いていた。
 
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