テンポラリーラブ物語
 閉店後、純貴が声を上げる。

「皆さん、今日もお疲れ様。斉藤さんも二日目なのに、すっかり慣れた感じでよく頑張りましたね」

 なゆみは謙遜して、照れながら首を横に振っていた。

「それで、明日の土曜日、仕事が終わったら斉藤さんの歓迎会も合わせてみんなで飲みに行こうと思います。隣のビルの支店で働いてる人も参加しますので、皆さんも是非参加して下さいね。もちろん会社のおごりです」

 少ししか離れていない隣のビルにも小さな支店があった。

 そこは狭い店舗ながら、外に面しているので通行途中の客が多い。

 同じ店で働いているといっても、めったに顔を合わすことはなく、やりとりは電話で済ます程度だった。

 氷室はその支店の主任が苦手だった。

 自分より年を取り、はっきりとモノを喋らないこもったような話し方。

 小柄なおっさんで気持ちの悪さが引き立ち、同じ主任と同類項にされるのが不快だった。

 そんなのと一緒に飲むのかと遠慮したかったが、なゆみの歓迎会も含まれるとなると無視できない。

 酒が入った彼女がどうなるのか見てみたいなどと、好奇心も膨らんだ。

「斉藤は酒飲めるのか」

 氷室は率直に聞く。

「えっと、あの甘かったら飲めますが、できたらアルコールが入ってない方が好きですね」

「それってただのジュースじゃないか」

 なゆみは氷室の突っ込みに子どもっぽく笑う。

 こいつは根っからのガキだと認定書を作ってやりたくなったが、それが素直さであり、氷室はそれ以上茶化す気持ちが薄れてしまった。

 ガキと氷室も判を押していても、本来おっさんである自分の性格の方がさらにそれ以下だった。

 おっさんがガキ以下…… 幼稚園児か。

 体はデカく見かけは大人で一応寄ってくる女は一杯いた。

 しかし、なゆみの前では、自分が手を取られて引っ張られている気分になってしまう。

 なゆみもまさか氷室の心の内を見破っているのではないだろうか。

 氷室は急に恐れるように、身震いしてしまった。

< 32 / 239 >

この作品をシェア

pagetop