テンポラリーラブ物語

 ミナと紀子が出勤した後、なゆみは明るさを取り戻し、目の腫れについても冗談っぽく交わしている。

 あの少し姉御肌のミナでさえ、気を使う様子を見せているところをみると、女の子が目を腫らすくらい泣くというのは、とてもデリケートなことなのだと氷室は認識した。

 美穂も午後から現れて、何かが違うと指摘はしてたが、別に理由まではしつこく聞いていなかった。

 その頃は多少腫れも引いていたように思え、話題にするほどの事でもなかったのだろう。

 純貴は美穂との交流に忙しく、なゆみのことなどことさら眼中になかった。

 氷室だけが土足でデリケートな乙女心を踏みにじり、意地悪するかの如く傷つけた。

 不本意でありながら、それでいてなゆみのことに対してつい口が出る。

 裏を返せば、自分が構って欲しい心理の表れだった。

 32歳のおっさんがすることかと、時々タイプを打つ指に力が知らずと入って、狂ったようにキーボードを強く叩く。

 かと思うと手元が突然止まって、切なくため息がでる。

 時々何気なさを装って、なゆみの様子を探りながら、氷室はデスクワークをこなすということを繰り返していた。

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