テンポラリーラブ物語
 そんな時、氷室となゆみの間でひらひらと商品のチケットが落ちた。

 咄嗟の反射神経で拾うおうとする二人は、同時に腰を屈め、また手と手が触れた。

 二人とも踏み込んではいけない領域に入り込んでしまったかのように驚いて、シンクロナイズして大げさに手を引っ込める。

 でもお互い避けていると思われるのは嫌で、また二人は再びチケットを拾いにかかる。

 それが今度は自分が拾うんだと主張するように、引っ張り合いになってしまった。

 やけくその氷室と無理して踏ん張っているなゆみは対峙し、無言で見つめ合ってはどちらもその真意を知ろうと躍起になる。

 時が止まったように、二人はチケットを引っ張り合いながら固まってしまった。

 電話のベルで我に返った氷室は、慌てて手を離し、その場を離れ、なゆみも同時にはっとした。

 どちらも自分のつまらないプライドで意地を張り合い、何をやってるんだと情けなくなった。

 その気持ちが重苦しく、体が曲がって猫背になっていた。

 二人の背後には青白く光る火の玉が、縁起悪くゆらゆら漂っているようだった。

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