テンポラリーラブ物語
 二人は仕事中すれ違うと、どこかぎこちない。

 どちらも様子を探って、相手の出方にびくびくしてしまう。

 それをどちらも悟られるのを隠そうと表面的に演技をするが、さらにそれが奥深いことまで勘ぐらせる原因となり神経をすり減らせる。

 閉店時間が近づく頃は二人とも、気疲れてやつれていた。

「終わった」

 シャッターが閉まったとき、純貴が叫んだ。

 これから飲みに行くぞと、知らせの汽笛を鳴らしたみたいだった。

 女性陣は控え室に入って着替えを始める。

 そして氷室は、どしっとだらしなく椅子に座りこんだ。

「どうした、コトヤン。なんか異常に疲れてそうだね」

「いや、そうでもないよ」

 ここで疲れたなどと言ってしまえば、また控え室に筒抜けてなゆみの耳に入ってしまう。

 なゆみに変な勘ぐりをされては困ると、氷室は首を左右に倒してコキッと音を鳴らせ、あたかも飲みに行く前の準備体操とでもいうようなフリをした。

「明日は休みだ。今日は思いっきり飲んでくれよ」

「純貴はそういうところは気前がいいな」

「一応愛される専務を目指してますからね」

 機嫌のいい純貴の気持ちを損ねるのは避けたかったので口に出しては言わなかったが、一部の女性社員にはそりゃ愛されてるだろうと氷室は心の中で突っ込んでいた。

 暫くして女性従業員が控え室から出てくると、氷室はすぐさまなゆみに視線を合わせていた。

 なゆみの相変わらずの大きなリュックサックも当然視界に入る。

 しかしいつもと違う雰囲気があった。

 そこにキティちゃんのマスコットがついてることに気がついた。

 前日まではなかったはずだと、氷室はそのマスコットを見ていた。
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