テンポラリーラブ物語

「さてと、それでは皆さん行きますか」

 純貴が先頭に立ち引率すると、美穂がそれとなく近づいて肩を並べて歩き出した。

 その後ろを氷室が歩き、ミナと紀子がなゆみの相手をしながらついてくる。

 少しだけ腫れた痕がうっすらとわかったが、なゆみの目の腫れはその時ほとんど引いていた。

 できるだけ前にいる氷室を見ないように、なゆみは視界を狭めて歩いている。

 できることならさっさと帰りたい。

 しかし歓迎会として開いてくれた厚意を踏みにじることはできなかった。

 一同は目的地へとぞろぞろと地下街を真っ直ぐ突き進む。

 すると前方で、行きかう人の間からジンジャが歩いてくるのが目に入った。

 はっとすると共に次の瞬間、なゆみは動かぬ証拠を突きつけられ、大いにショックを受けてしまった。

 隣にユカリが肩を並べて歩いていたからだった。

 やはり自分の勘は当たっていた。

 思わず、二人に見つからないようにこそこそしてしまう。

 別に自分は悪いことをしているわけではないのに、激しい動悸に見舞われ、かなり動揺してしまった。

 地下外は四方八方に通路があるので、ジンジャとユカリはなゆみに気が付くことなく、角を曲がって行ってしまった。

 その方向には英会話学校がある。

 二人は揃って授業を受けるつもりなのだろう。

 土曜日はなゆみもいつも顔を出していたが、この日は自分の歓迎会があるために行けなかった。

 だから二人はなゆみに気兼ねなく堂々と一緒に行動できるというものだった。

 ジンジャはなゆみを傷つけまいとしていたのかもしれないが、その真実が露呈した時、自分の独りよがりな行動になゆみは恥ずかしくもあり、悲しくもあった。

 どうしようもない気持ちに、暗く落ち込み、この時ばかりは無理してでも笑う事はできなかった。

 そんなわかりやすいほど肩を落として呆然としているなゆみを、氷室が振り返り見ていた。
 
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