テンポラリーラブ物語
 予約を入れていた居酒屋の前に来ると、小柄なおじさんがにやけた顔で純貴に話しかけた。

 これが氷室の嫌うもう一人の主任だった。

 そしてその周りに三人の女の子たちがいた。

 ミナと紀子が親しげに話し出す。

 職場は離れていても女子従業員同士で交流があるようだった。

「お疲れ様です」

 ミナと紀子が小柄なおじさんに挨拶をした。

「ああ、お疲れさん。えーと、その子が新しく入って来た人かな」

 一斉になゆみに視線が集まる。

「初めまして、斉藤なゆみです。どうぞ宜しくお願いします」

「ああ、どうもどうも、川野です」

 小柄なおっさんはにやけた笑いを浮かべて、人当たりよさそうな感じだった。

 ときどき意味もない『ヘヘヘ』という笑いが入るが、氷室と比べたらなゆみには物腰柔らかく感じた。

 一同は奥のお座敷があるところへ案内され、なゆみは遠慮がちに一番後ろをついていく。

 五人ずつ向かい合わせに座る、掘りごたつ式になったテーブルのある部屋に通された。

 皆順々に席についていくが、氷室の隣にだけはなりたくないという願いはなんとか通じ、氷室が一番端っこに座ったことで、なゆみは避けやすくなった。

 氷室の前には純貴が座り、純貴の隣はもちろん美穂。

 氷室の隣は知らない女性が腰を落ち着けた。

 氷室と同じ列になゆみも座ったが、ちょうど5人の真ん中に位置して、隣の残りの二席はミナと紀子が座った。

 向かいには川野が座り、あとは支店の残りの女の子二人が並んでいた。

 知らない女性が左にいたが、氷室をブロックしてくれたのでいい人だとなゆみはすっかり気を許していた。

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