テンポラリーラブ物語
「いえ、そんなこともういいです。やっぱり氷室さんは正しい。私ほんとに子供で、ただ恋に恋してただけだったのかも。お酒をやけくそで飲んだのも、悲劇の ヒロインになりたかっただけなのかもしれない」
「もうよせ、どんな理由があるにしろ、それも人生の一部。悲劇のヒロインであろうが、喜劇の道化師であろうが、要は思いっきり心のままに行動したくなる時があるってことさ。お前はまだ二十歳だろ。なんでもできるし、なんでもありさ」
「氷室さん…… 私、氷室さんのこと誤解してました。すごい冷血漢だと思ってたし、それに私の中では一番苦手なタイプと思ってました。だけどそれは私以上の人生を経験されてるから、物事に冷静になれるんですね」
「そっか、苦手なタイプか」
氷室はふっと笑ってしまった。
「いえ、今はその」
「いいよ、無理しなくて。その誤解は誤解じゃない。俺はほんとにただの冷血漢さ」
「でも困ったとき、助けてくれた。お客さんに怒られたときも、そして今だって」
「仕方ないじゃないか、俺はお前の上司だ。義務だよ義務」
本当にそれだけだろうか。
氷室は自問する。
「氷室さんはどうしてあのお店で働いているんですか」
「なんだよ急に」
「だって、氷室さんはもっと上を目指せるっていうのか、あっ、あの仕事が悪いっていってるんじゃないんです。貴賤するつもりはありません。その、なんていうのか、氷室さんにはあまり合ってないって思ったから」
「合ってない?」
「ごめんなさい。生意気なこと言って。でもいつも寂しげな瞳でコンピューター画面を見てるから、他にやりたいことあるのかもって勝手に思ってしまいました」
「いつ俺のこと見てたんだよ」
「いえ、そのまたなんか言われるかとビクビクしてその……」
「まあいい。でも一回り下の子にそんなこと言われるとは、思わなかったよ」
「えっ、氷室さん32歳なんですか」
「ああ、君の目から見たらおっさんだ」
「いえ、すごく若く見えます。てっきり20代後半くらいかと」
「今更お世辞かい?」
「そ、そんな」
氷室がまた不機嫌になったように思え、なゆみは気まずくなり黙り込む。
白っとした空気が流れたようで、体感温度までもが下がったように思えた。
なゆみも体が急激に冷え出し、急にぶるっと身震いしていた。
「もうよせ、どんな理由があるにしろ、それも人生の一部。悲劇のヒロインであろうが、喜劇の道化師であろうが、要は思いっきり心のままに行動したくなる時があるってことさ。お前はまだ二十歳だろ。なんでもできるし、なんでもありさ」
「氷室さん…… 私、氷室さんのこと誤解してました。すごい冷血漢だと思ってたし、それに私の中では一番苦手なタイプと思ってました。だけどそれは私以上の人生を経験されてるから、物事に冷静になれるんですね」
「そっか、苦手なタイプか」
氷室はふっと笑ってしまった。
「いえ、今はその」
「いいよ、無理しなくて。その誤解は誤解じゃない。俺はほんとにただの冷血漢さ」
「でも困ったとき、助けてくれた。お客さんに怒られたときも、そして今だって」
「仕方ないじゃないか、俺はお前の上司だ。義務だよ義務」
本当にそれだけだろうか。
氷室は自問する。
「氷室さんはどうしてあのお店で働いているんですか」
「なんだよ急に」
「だって、氷室さんはもっと上を目指せるっていうのか、あっ、あの仕事が悪いっていってるんじゃないんです。貴賤するつもりはありません。その、なんていうのか、氷室さんにはあまり合ってないって思ったから」
「合ってない?」
「ごめんなさい。生意気なこと言って。でもいつも寂しげな瞳でコンピューター画面を見てるから、他にやりたいことあるのかもって勝手に思ってしまいました」
「いつ俺のこと見てたんだよ」
「いえ、そのまたなんか言われるかとビクビクしてその……」
「まあいい。でも一回り下の子にそんなこと言われるとは、思わなかったよ」
「えっ、氷室さん32歳なんですか」
「ああ、君の目から見たらおっさんだ」
「いえ、すごく若く見えます。てっきり20代後半くらいかと」
「今更お世辞かい?」
「そ、そんな」
氷室がまた不機嫌になったように思え、なゆみは気まずくなり黙り込む。
白っとした空気が流れたようで、体感温度までもが下がったように思えた。
なゆみも体が急激に冷え出し、急にぶるっと身震いしていた。