テンポラリーラブ物語
「いいか、男と二人っきりで密室に篭るということはこういうことだ。調子に乗って気を許すな。肝に命じとけ。帰るぞ」

「はい、すみません」

 身を持ってそれは学んだことだが、氷室の無理をした行動がどうも引っかかってならなかった。

 氷室が抱えている問題に触れてしまった事で、なゆみは氷室の見方が少し変わった。

 むやみに苦手だと言い切ってしまえないものを感じ、そこに心の傷を見てしまった。

 ゆっくりと身を起こしながら、氷室の背中を見つめていると、後ろからそっと抱きしめたくなった。

 そんな時に、自分のリュックサックを投げられ、代わりにそれをぐっと抱きしめざるを得なかった。

「お前、馬鹿でかいの持ってるけど、その中にいつも何入れてるんだ」

 氷室は何事もなかったように、また元に戻っていた。

「英語の本と辞書とノートですけど」

「それとたくさんの夢もだろ。お前はいつも一生懸命だもんな。俺と違って。お前が羨ましいよ」

 捨て台詞を吐くように、氷室はさっさと部屋を後にする。

「氷室さん?」

 なゆみはリュックを肩にかけ、急いで後を追った。

 その時、鞄に付いたアクセサリーのキティちゃんもなゆみの心と同様に激しく揺れていた。

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