別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~

この一ヶ月、会社帰りに奏人と何度か食事をした。

会社の近くのお店で食事をした方が、奏人は楽なんだけど、私が松島さんとか会社の人に目撃される事を気にして落ち着かない。

だから、奏人がわざわざ遠回りになる私のアパートの最寄駅迄来てくれている。

入るお店はだいたいが美栄。

手ごろで美味しいからお気に入りだ。

今日も、私が先に会社を出て美栄に向かう。

結構お腹が空いたから、しっかり食べたい。

何を注文しようかと考えながら、最寄駅の改札を抜け、店に向かっていると名前を呼ばれた。

「理沙」

え? この声は……驚いて振り返ると、思った通り奏人だった。

「……なんで居るの?」

私の方が先に会社を出たのに。

奏人は急いで駆けつけた様子もない。

黒に近いダークグレーのスーツに、黒系のストライプタイは着崩れていなかった。

奏人はニコリと笑うと、私の隣に来て肩に腕を回す。
歩くように促してくるんだけど、その足は美栄に向かっていない。

「どこに行くの?」

奏人を見上げると、ニヤリを何か企んでそうな顔をして笑われた。

な、何、この顔。

「車で来たんだ」

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