別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「奏人に付きまとうのもいい加減にして!」

「つ、付きまとうって、それはあなたの事じゃないんですか?」

勇気を出して返事をすると、朝美さんの両目がカッと見開いた。

こ、恐い! かなり怒らせてしまったみたい。

これはもう逃げ出すしかない。

さくら堂のビルまではあと百メートルくらい。

走ってビルの中に入ってしまえば、中には警備員もいるし、朝美さんも追っては来れないだろう。

ただ、もし彼女が逃げる私を追いかけて来たら?

想像するとげんなりした。

二十六歳にもなって、公道で追いかけっこなんてしたくない。

だけどいつまでもここに居る事も出来ない。

会社の誰かに見られたら変に思われてしまうだろう。

よし、逃げよう。

そう決心したその時、鬼のような形相になった朝美さんが私に掴み掛かってきた。

「あんたのせいで!」

う、嘘でしょう?

まさかの暴力沙汰?

こんな修羅場的展開に耐性がある訳もなく、私は掴まれた勢いでバランスを崩して派手に転んでしまう。

そこに新たな声が割り込んで来た。

「何をしているんだ?」

冷ややかな声。

恐る恐る顔を上げると、そこに居たのは救世主などではなく、営業二課の滝島課長。

状況の悪化が予想され、眩暈がしそうだ。


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