別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「どうしたら許してくれる?」

「え?」

「理沙と別れたくない」


真摯に訴えられると、感情が乱れてしまう。
真っ直ぐ見つめて来ないて欲しい。

「理沙を愛してるんだ」

「!……また嘘を言うの⁈ 本当に好きだったらこんな酷い事出来ないでしょ?」

「嘘じゃない! 理沙の事を何とも思ってなかったら、拒否されているのに縋ったりしない。俺には理沙が必要なんだよ」

そう訴えながら、奏人は距離を縮めて来た。
手を少し伸ばせば触れてしまいそうな程に。

「理沙と別れるなんて出来ない」

目の前に居る人は私の好きだった人とは別人の筈なのに。外見もすっかり変わってしまっているのに、どうしてなんだろう。

強引に腕を捕まれても振り解けない。

そのまま奏人の腕の中に引き寄せられて、耳元で囁かれた。

「俺には理沙しかいない」

ああ……ようやく分かった。奏人を完全に拒否出来ない理由が。

声だけは、変わっていないからだ。
こうやって視界を塞がれて、切々と訴えられると自分の気持ちが分からなくなる。

奏人の背中に腕を回して縋りそうになる自分かいる。
相手はどうしようもない嘘吐きなのに。

感情が高ぶったからか、涙が溢れて来てしまった。
それに気付いたのか、奏人が嫌になる位優しい声音で囁いた。

「理沙、何か言って? どうすれば理沙の気が晴れる?」

気が晴れる事なんて、きっともう無い。
どんな事情を聞いたって、奏人を許す事は出来そうに無いし、かと言って完全に嫌いになる事も出来ないんだって、気付いてしまったのだから。

「理沙。俺に出来る事なら、なんでもするから」

何をされたって、この苦しさは癒されない。

でも、本当に何でもしてくれるなら……私は顔を上げて奏人を見つめた。

「奏人と一緒に働くなんて私には出来ない。違う部署に配置換えして欲しい。それが無理ならせめて奏人のフォローの担当は外して欲しい」
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