別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
私の懇願に奏人は顔を強張らせてから、暗い声で答えた。

「……それは出来ない」
「どうして⁈」

社長の息子だって言うなら有る程度の人事権は有るんじゃないの?

「俺の配属はもう正式に決まった事だから、今更変えたら大勢の人に迷惑をかける事になる。それに俺自身がこの部署で働きたいと思ってる」

「……だったら私が異動する」

「それも無理だ。急に配属変えなんて出来る訳が無いだろ? そもそも俺には理沙の業務を決める権利は無い。俺のフォローに理沙を指名したのは部長なんだ」

「そんな……」

部長……どうして私に目を付けたんですか?
もうとっくに部屋を出て行った部長に心の中で文句を言っていると、相変わらず背中に回っていた奏人の腕に力が篭ったのを感じた。

さっきから密着していたところ、更に身体を引き寄せられて、私は慌てて抵抗する。

「奏人⁈ 何するの? 離してよ!」
「嫌だ」

奏人は即答すると、強い力で私の抵抗をあっさり遮る。

「部長の意思は関係無く、俺も理沙がいい」

「はっ? 何言ってるの? さっき仕事に私情は挟むなって自分で言ってたのに!」

「部長の前ではって言っただろ? 今は二人きりだから。それに、さっきは理沙が俺を無視してるのにイライラして、あんな言い方になったんだ」

「何それ? なんで奏人がイライラするの?」

怒っているのは私の方だ。
ずっと騙されていただけじゃ無く、不意打ちの様に会社に入って来るなんて。
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