別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
奏人はそんな私を、今度はとても優しく抱き締めた。

以前の様にフワリとそっと支える様に。

その懐かしい感触に胸が痛くなる。

「理沙、傷付けて本当にごめん。もう二度と理沙を苦しめる様な事はしないから」

「そんな事言われても無理だよ」

そう答えながらも、私は奏人の腕の中に大人しく収まったままでいる。

奏人も私を離さなかったけれど、小さな溜息を吐いた。

「それなら恋人に戻る事は今は諦める」

「……え?」

信じられない事に、今、私は喪失感の様なものを感じてしまった。

自分から拒否したのに、なんて勝手なんだろうと思う。

でも、私も自分の気持ちを持て余しているのだ。

「でも同僚としては避けないで欲しい。出来れば友人としても」

「友人として?」

「そう。でも理沙を諦めた訳じゃなくて、そのポジションで理沙の気持ちを取り戻せる様に頑張るから」

思わずホッとしてしまった。

そんな気持ちを隠す為、私は素っ気なく返事をした。

「ただの同僚としてなら。私も仕事を辞めたくないし」

ああ、私ってなんて素直じゃないんだろう。

それに、強い心を持つことも出来ない。

奏人に未練が有るのに、広い心で奏人を受け入れられないし、かと言って強い覚悟で突き放せない。

どうしてこうなったんだろう。

この部屋に来る前は、間違いなく奏人とキッパリ別れるつもりだったのに。

フラフラと定まらない自分が、情けない。

でも、奏人の安心した様な顔を見ると、結局強い事を言えなくなってしまう。
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