別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「なんでって、理沙を愛しているからに決まってるだろ?」

いや、そうじゃなくて……。

反論の言葉を探す私の頬に、奏人が微笑みながら手を伸ばす。見た事が無いヤケに色気の有る表情だ。

奏人ってこんな顔もするの?

しかも、私を都合良く丸め込んで自分のペースに引き込もうとする、口の達者さにも驚きを隠せない。

さっき怒っている様な顔をしたのも、絶対に演技だ。

「理沙は俺を許してくれないの? 何時も大好きだって言ってくれてただろ? どんなに後悔して反省して謝ってもたった一度のチャンスも貰えないのか?」

今度は哀しそうな表情で訴えて来る。

私の罪悪感を刺激する様なこの空気感も、狙って作っているに違いない。

そう気付いているのに、私は奏人を潔く切る捨てる事が出来ない。

かと言って一年に渡る嘘を許せる程の器は無い。

黙り込んだ私を、奏人は更に押してくる。

「理沙。俺はどうしてもやり直したい。本当に少しのチャンスも無いのか?」

切なそうに目を伏せ奏人は言う。

控え目な態度で許しを請うているけど、私に触れる手は引っ込めていないから、本心はどう思っているのか。

奏人の考えが全然分からない。

だけど、私にはもう発覚当初の勢いは無い。

時間が経っている事と、奏人の強引とも言える押しと、未だに残っている奏人への想いが私に完全な別れを躊躇わせる。

「……そんな風に言われても、直ぐに許すなんて言えない。奏人の事を心から信頼していたから凄く傷付いたし悲しかった。奏人をもう信用出来ない。やり直してもまた騙されるかと思うと怖い。私は嘘つきに苦しめられるのはもう嫌なの」

私の口から出たのは拒絶の言葉ではなく、ただ辛い心情を訴えるものだった。
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