別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「引き受けてくれそうな人がいないわ」

「どうして? 手が空いてそうな人は何人かいるだろ。松島さんとか」

「もう気付いたの?」

あまり社内にいないのに、早くも“手が空いてる人”として松島さんの名前を挙げるとは。

鋭い洞察力に感心する。

「ってことは理沙から見ても暇人なんだな。じゃあこれは松島さんに渡せよ」

「無理」

即座に断ると、奏人は不満顔になる。

「なんでだよ」

「松島さんは営業部の女性の中で、一番のベテランだって知ってるでしょ? そんな人に新入社員が任せられるような仕事を回せるわけないじゃない」

お伺いすら立てられない。絶対に激怒されると思うから。

だったら自分がやった方がずっとましだ。

「勤務年数なんて関係ないだろ? 仕事なんだし」

「仕事でも言えないことはあるから。私から松島さんに言うのは絶対無理」

「理沙には他に回したい仕事が沢山あるんだよ」

「それはもちろん頑張ってやる。でも松島さんに言うのは無理だから。奏人は私が松島さんに睨まれて営業部内で辛い立場になってもいいって言うの?」

ちょっと強い口調で言うと、奏人はぐっと言葉に詰まった。

「……分かった。じゃあ俺から松島さんに頼む。それでいいか?」

奏人が松島さんに?……どうだろう。

私が言うよりは角が立たないと思うけど。
松島さんは明らかに奏人を気に入っているから。

「……あまり強引な言い方しないで。お願いする感じでね」

念を押す私に奏人は呆れたような声で「分かった」と言う。
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