嘘つきには甘い言葉を
「はぁ……。貸しだからなっ」
背中に届いたミノルさんの声は、何だか嬉しそうに聞こえた。
「いいの?」
一応尋ねるけど、口の端を上げてる彼が戻らない事なんてわかってる。
「あいつはわかってるからいいんだよ」
思った通りの返答が来た。

ミノルさんと隼人さんは、それくらいの友達だってこと。
それならまぁ、任せちゃってもいいか。
ちょっと申し訳ないけど……。
今度私からも何かお礼しよう。

隼人さんに手を引かれてステージ横の階段を降りる。この階段を登った時には不安だらけだった。
こうして一緒に手を繋いで降りられるなんて思わなかった。

自分の気持ちは伝えなくちゃ始まらない。
逃げてばっかりだった私も、やっと自分の足で歩き始めたんだ。
受付を通り抜ける時、ツインテールの女の子と目が合ってツンと目を逸らされたけれど、気まずい思いはなかった。

この人の手、私は絶対に離さないから。
私にも譲れないものがあるから。
いつかきっと、彼女も諦められる日がくると思う。

階段の下には龍くんと和香のカップルとV5が談笑していて、私たちに気がつくと駆け寄ってきてくれた。
「桜ちゃんー。本当におめでとう」
鼻声で抱きついてきた和香に、「ありがとう」と告げる。
和香が昨日来てくれなかったら、私は今日ここにいなかった。

「皆も、ありがとう」
V5に向き直る。
応援してくれて、本当にありがとう。

「さーて。じゃあ私はデートに行こうかなぁ。後は二人で楽しんでねー」ナツミが手を振って歩き出す。
「私たちはどうする? バレンタインパーティーにでも行こっか。じゃあね」とカナコとハルも続く。
残った皆実が、龍君と話していた隼人さんに声をかけた。
「あの……」
「皆実ちゃん、だよな。久しぶり」

ん?
珍しく隼人さんの歯切れが悪い。
「二人、知り合いなの?」
不思議に思って尋ねると皆実が薄く笑う。

「ちょっとね……。
桜のこと、よろしくお願いします。絶対幸せにしてあげて。
じゃあ、私も今からあさくんとデートなの。桜のせいで遅刻だよー。バイバーイ」

隼人さんも笑って手を振って、私は彼の腕をつついた。
「どういうこと?」
「お前が心配するような仲じゃねーよ」

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