ポイントカードはお持ちですか?
9 一体何がしたいのですか?



健やかなるときも、(多少)病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、顔を合わせなければならないのが同僚だ。

仕事がある限り。
転勤や退職が二人を分かつまで。


あー、一万円しかない。
売店まで崩しに行くの面倒だなー。

自動販売機の前でしょんぼりしていると、チャリーンと音をさせて伊月君が100円玉を投下した。

「午後からの会議ですけど、業者さん側の人数が増えたので会議室取りました。第二会議室でお願いします」

「あ、はーい。わかりました」

一歩横にずれて自動販売機の正面を譲ったのに、ボタンを選ぶ気配がない。

「あれ?何か買いに来たんじゃないの?」

「小銭ないんでしょう?ココアの1杯くらいごちそうします。いつもお菓子いただいているので」

お菓子のお礼か。
気が向いたときに適当に配ってただけなのに、伊月君は律儀だな。

「そっか。じゃあ、いただきます」

遠慮なくごちそうになることにしてボタンを押す。

富めるときも、貧しいときも、顔を合わせなければならないのだったね。


貧しい私はあっまーいココアを一口飲んで、そういえばどうして伊月君は私がココアを選ぶと知っていたのだろうと思った。

よくココアを飲んでいるから?
ボタンに手を添えていただろうか?
ただの勘?

放っておくと自分に都合のいい解釈をしてしまいそうになる。

だからと言って、富樫さんへの返答も伊月君が異動するまで待ってはもらえない。

一歩一歩なんて許されない。
あれもこれも同時にこなさなければならないのが社会人なのだ。

「・・・咲里亜さん、研修は・・・どうでしたか?」

「研修?普通に話聞いて、その後ディスカッションして、って感じだったよ?伊月君だって研修くらい出たことあるでしょう?」

「そうですか。・・・・・・あの━━━━━」

「いたいた!咲里亜ちゃーん!課長が呼んでるよー!」

彼方から奈美さんが大声で呼ぶ。

「はーーーーい、わかりましたー。伊月君、これごちそうさまでした」

ココアも課長も同時に対応しなければならないのが社会人なのだ。
はあ。



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