ポイントカードはお持ちですか?

ガッチャン!と大きな音をさせて、風見さんはお茶碗が積まれたカゴを置いた。
テキパキとしつつも丁寧な仕事をする彼女には珍しくてびっくりした。

「30歳くらいで達観したフリしないでください。羨ましいなんて思ってないくせに。22歳にもなって仕事だってまともに決まらない、大卒と違って学歴だってない。若くてもっとキレイで優秀な人なんてごまんといる中で、私が他人より秀でてるところなんてないんです。咲里亜さんだってそう思ってますよね。『若くてかわいいね』って。それって若さ以外、私に長所なんてないってことでしょう?咲里亜さんは22歳のとき、若いからって何でも手に入りましたか?今咲里亜さんがそんなに卑下するほど、30歳の人はダメに見えてましたか?私からしたら何でも持ってる咲里亜さんに言われても、バカにされてるようにしか思えません!」

言い捨てて洗い終わったカップをガチャガチャ言わせながら、風見さんは足早に給湯室を出ていった。


頭をガッツンと殴られたみたいだった。

いつも口から出任せで安易に誰かを褒めてきたことが、まさか傷つけているとは思っていなかった。

風見さんをかわいいと思っているのは本当だし、彼女の真摯で一生懸命な仕事ぶりはどこへ行っても評価されると思う。

だけど、「真摯で一生懸命」なんて曖昧なもので採用してもらえるほど就職活動が甘くないことも知っている。

彼女の言うように私には生活の基盤となる仕事がある。
全然大切にできていなかったけど、もしこれがなかったら自分に絶望していただろう。

彼女のコンプレックスに、安易に踏み込んでしまった。

「はああ、まいったな」

だけど風見さん。
私には仕事以外に何もないんだよ。
本当に、何もないんだ。


今からでも間に合うだろうか。
少しずつ少しずつ、ポイントを貯めるように。

失った20代はどうにもならないけど、60歳の私が誇れるような30代にするために。





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