ポイントカードはお持ちですか?
6 一度だけ、いいですか?



伊月君のことは「とりあえず放置」という結論が出た。
結論もなにもそれしかない。

自分の現状(結構危険!崖っぷち)を思い知ったところで「じゃあ早速婚活だっ!」とは切り替えられない。

以前はただ面倒臭いだけだったけれど、やっぱり好きな人がいると他の人に目が向かなくなる。


伊月君はあと4ヶ月ほどで異動。
4ヶ月待てば平穏な生活が帰ってくるのだ。

そこはまだ30歳。
それくらいの猶予はあるはずだ、と思いたい(切実!)。


せめて仕事を頑張ろうと思う。
伊月君みたいに無駄に美しい文書は作れなくても、誤字脱字や表現にもっと注意することはできる。
やりたい仕事じゃなくても、生き甲斐じゃなくても、真摯に取り組むことはできる。

伊月君みたいに他人の余した仕事を丸々引き受けるだけの能力や度量はないんだけど。


30歳の片思い。
結果がどんな悲惨なことになろうとも、少しは「彼を好きになったから今の自分がある」って言えるような恋にしたいじゃない。



あとで見やすいようになんて考えずにギュウギュウファイリングしていた書類も整理する。
パンチ穴の位置までは、さすがにどうでもいい。

「あれー?10cmファイルってこれで最後?」

文具棚の前でポツリとつぶやくと、

「あ!確か倉庫にありました。今持ってきますね」

と、臨時職員の風見さんが声を掛けてくれた。

「ごめんね。ありがとう」

軽い素材の小花柄スカートをひらんと揺らして風見さんが足早に倉庫に向かう。

かっわいい~。
22歳だっけ?
はああ、眩しい・・・。
もう怖くて太股なんて出せないよ。


綴じる予定の書類はドサッと脇に積んで仕事を再開。

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