【短編】大嫌いな君にデートに誘われたって行くわけないでしょ。多分。
「もしかして…椎名 葉月さん?」
「え…」
いきなりフルネームで名前を呼ばれ振り返ると、そこには今日初めて見た新のお母さんが立っていた。
「あ…あの…私…なにも知らなくて…その…」
何も知らなくて
本当にごめんなさい。
その言葉が涙で思うように出てこない。
「…本当に…ごめんなさ…」
ギュッ
!!
いきなり、優しい腕に体が包まれる。
「本当にありがとうね。葉月ちゃん」
!!
どうして私なんかにそんな言葉…。
「あの子、あなたに会ってからすごく生き生きしてて。ずっとお見舞いに来てくれてたのもあなたよね。新に怒られるからわざと顔出さなかったの。2人の時間邪魔しないように」
優しい声で話してくれる新のお母さん。
「…私…新くんを…ぅっ…勝手に屋上に…」
「違うわよ。違う。葉月ちゃん。逆に感謝してるの。本当にありがとう。最後にいい思い出ができた。あの子の最後の思い出が病室の真っ白な天井だなんてかわいそうだもの」
「…うっ…」
「ありがとう。ありがとうっ。…ありがっ…とうっっ」
新のお母さんは何度も感謝を述べながら、涙を流した。