ハロウィン

「ハオウン?」

「・・・ハオウンってなんだよ。・・・ハロウィンな。簡単に言えば一種の行事だ。・・・やっぱり知らないか?」

俺のその問いを真っ黒な黒犬は「知らねえな」とあっさり切り捨てた。

それに俺は「そうか」とだけ答え、大量の渋柿の皮剥きを再開した。

今日中に剥き終わればいいが・・・。

そんなことを不意に思う。

先生の命で(俺が代わりを引き受けたのだが)俺は今、大量の渋柿の皮を縁側で剥いている。

季節はすっかり秋だ。

夏は青々としていた庭の木々たちはほんのりとその葉の色を赤や黄に変えはじめ、風は冷たくなり、空は高くなり、陽はだんだんと短くなってきている。

実りの秋が終われば寒い冬がやってくる。
寒い冬が終われば花の咲く暖かな春がやってくる。
花の咲く暖かな春が終われば暑い夏がやってくる。
暑い夏が終われば実りの秋がやってくる・・・。

そうして季節は幾世も廻り巡る・・・。

人はその廻り巡る季節の中で生きている。

『人は愚かで傲慢だ。』

そう言ったのは誰だったかな・・・。

今も本当にその通りだと思う。

だが、人である(一応)俺がそう思うのと人ではないモノがそう思うのとでは重さが違うと俺は思う。

それでも人は愚かで傲慢だ。

「・・・今、何を考えている?」

不意に黒犬が聞いてくる。

俺はその大きな黒犬を注視した。

馬ほどもあるその巨大な体躯は艶やかな黒の被毛で覆われており、金色の瞳には他を圧倒する確かな圧がある。

意味もなく異名に『王』が付いているわけではないな。

そんな不躾なことを俺は内心で呟いた。

「・・・何も。・・・強いて言うならば、この大量の渋柿の皮剥きが今日中に終わるかどうかを気にかけてたぐらいだ」

それはあながち嘘ではない返答だった。

「そうかい。まあ頑張んな」

随分と気の抜けたその軽い返答に俺は大きな溜め息を吐き出した。

本当にこれは今日中に終わるのか・・・。
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