ハロウィン
「それは・・・ハロウィンの仮装か?」
不意に声を掛けられた俺は僅かに飛び上がり、その声のした方を慌てて振り返った。
「・・・お久しぶりです。雨月【うげつ】さん」
俺の挨拶に雨月さんは軽い会釈を返してくれた。
勝色の着物が何とも粋だ。
そんなこと密かに思う。
勝色は紺よりも更に濃く、黒に見えるほどの暗い藍色で武士が好んだ色だ。
「ハロウィンの仮装です。・・・先生がこれをと」
俺は頭上の猫耳を指差しつつ、大きな溜め息を吐き出した。
俺のその様子を見て雨月さんは僅かに微笑んだ。
雨月さんは猫のモノノケだがパッと見、その容姿はモノノケには見えない。
それでもモノノケはモノノケだ。
人ではない。
「なかなか似合っているぞ?」
雨月さんのその言葉に俺はもう一度、大きな溜め息を吐き出した。
「・・・褒められても嬉しくありませんよ」
「そうか」
雨月さんはそう言うとにこりと微笑んだ。
それを見て、俺の気持ちは少し落ち着いた。