勘違いも捨てたもんじゃない

…はぁ。会社に来ては溜め息ばかりついて…これでは使えない社員よ。その内、肩を叩かれたりして…。

どこにも出掛けたりしない、部屋にずーっと居るけど、武蔵さんが来ない。もうずっと、全然、来ない。期待しないことにはしてるけど。
忙しいの?と聞くことなんてそもそも愚問だし…。
ちょっと会えないからってなんなの?…もっと大人にならないと駄目なのよね……。
会いたいけど会えない、は、遠距離ならあること。私は遠距離じゃない…。歩いてだって一時間も掛からない場所に居るんだもの。うん、…うん、うん。ちょっと来ないくらい何よ。……かなりだけど。…まるで……シたいって、言ってるようなものじゃない。違うけど…違わない部分もあるけど…。武蔵さんが……武蔵さんとの温もりが恋しい…。我慢できないなら、要は…自分が行けばいいのよね、押しかければいいのに…馬鹿ね、何してるんだろう。待っててぶつくさ言ってるくらいなら言えばいいじゃない、行けばいいじゃない……何で行かないんだろう。何で我慢してるの?我慢じゃないの?私は何してるの…。

トントン。…ビクッ。肩を叩かれた。…へ?

「納得したのか?」

「は、い。…あっ、課長ー!」

…声に出てたのだろうか。

「…すみません、こんなんでは、支障、ありますよね…」

仕事に。

「フ。…ちょっといい?高鞍」

「…はい…」

…完全に、仕事に支障ありです。



「ほい」

「…有難うございます」

いつもの行為、いつものカフェラテに、いつもの場所…。

「アチッ。…どうも諦めが悪くてね」

ハンカチで口元を押さえて、眼鏡を押し上げた。

「え?」

「まだ諦めない事にしたんだ、…高鞍」

「え?」

諦めが悪いとは……一体何の話でしょうか。

「高鞍が溜め息をついているのは勿論、仕事以外の事だと解ってる。…何がしたいんだ?高鞍は」

「え?」

「ん…。溜め息、重い溜め息だろ…。高鞍が欲しいのは……苦しくて堪えられなくてもそれでも続けたい恋なのか?ただ自分が好きと思えるなら、それだけでいい恋か?それとも、いつも一緒に居られる融通の利く恋か?…大人の関係、そんなつき合いが欲しいのか?一体、何が望みなんだ?本質はなんだ…高鞍は何がしたいんだ?」

あ、…。何がしたいなんて…。私は…。私は自分から何もしていない。

「よく解らないって事に、答えがまだ出ていない…って事か」

…本当に結婚がしたいのかどうかさえ。私は私自身…何も確かなものがないのかもしれない…。

「だったら俺もまだ間に合う、よな?急いで気持ちに整理をつけなくても…まだ諦めなくてもいいと思うんだ」

「課長…」

「解らない事が益々増えるから、強制的に参加して来るなって?…ハハ」

「課、長…」

「あ゙ー、…、はぁ。…フ。見守るとか、幸せを願っているとかは、何も手段も無くて、どうしようもなくなった時の…精一杯の、最後の強がりだ…」

…。

「…いくつになっても、終わらせる事もできるし、始める事もできる。年齢の離れた者がするには難しくても、年齢が近い者同士なら、その時々の事情でつき合い方に困らないだろ?…相手をより人として理解できる。解りづらいし…しつこいな、俺。
力ずくで奪っても、それはきっと短くて儚いモノだ。優先してるのは自分の気持ちだけ、自己満足に過ぎない。手に入れた…一気に燃えたモノは冷めるのは早いものだ。呆気なく終わってしまうだろう。勿論、全部が全部、そうなる訳ではないけど…。まあこれは俺の考え方だから全てがそうだと決めつけないで欲しいことではある」

…。

「まあ、鬱陶しいかも知れないが、ここにも高鞍をしつこく思っている奴が居るって事、覚えていて欲しい。“まっさらの優良物件”とまでは到底いかないが、“傷ついた中古”だって中古なりに“リノベーション済み”だぞ?居心地は悪くないはずだ。申し訳ない、以上だ。…さあ、戻って溜め息の分も仕事してくれ」

「課長」

飲み干したカップの中の紙コップ、クシャッと潰して投げた。ごみ箱の縁に当たって弾むと何とか中に入った。

「お、と、危なかったな…。どんな途中経過だって、結果オーライ。入ってしまえば結果は同じだ、同じなんだよな」
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