勘違いも捨てたもんじゃない
「何を呑気なこと…大丈夫なのか…痴漢なんて」
「今はもう無くなりましたから」
「無くなったって…そんな安直な。高鞍が現行犯で捕まえた訳じゃないんだろ?ただの乗り合わせの関係であって、また無いとは言い切れ無いんじゃないのか?」
「…解りませんね、今は別の誰かがされてるかも知れませんし…。私は無くなりました。難しいんです…それだって痴漢と断定するのは難しいですから」
だから満員電車は嫌なんだけど。会社に来るためなんだから乗らない訳にはいかない。それにしても、課長は、誰にでもこんなに親身になっているのだろうか。私が性的に辛い目に遭っていたから、何かにつけて気にしてくれているのは解る。だけど…少し過剰な気もしない事も無いかも。…自意識が足りないとは、何に関してのことだろうか。
「危険な目に遭うのは嫌だろうけど、痴漢されたら我慢なんてしない方がいい。何も抵抗しないのは、つけ上がらせるだけだからな」
「…はい」
解ってはいる。
「痴漢する奴ら、ターゲットを決めたらずっとその人にばかりするらしいだろ?勘違いして、嫌がってないんだろ?てね。何も抵抗されないんだから、格好の餌食じゃないか、だろ?」
「…そうですね」
声をあげて抵抗する勇気は必要だ。だけどその勇気が中々難しい。それを解ってされてるんだ。
「嫌な話になったな。とにかく、何でも無かったのならお節介だったな。立ち入りすぎて悪かった」
「あ、いいえ。心配して頂いて有り難いと本当に思っています」
「優秀な人員は、つまらない事で辞めて欲しくないからな。あ、つまらない事っていうのは、大した事では無いという意味では無いからな。
つまらない事をする人間のせいでって意味だから、誤解しないで欲しい」
「はい、大丈夫です」
…。
「…高鞍。一緒に通勤するか…」
……え、今なんて…?
「ぇえっ?!」
「…そうだよ、うん、そうだよ高鞍。なんですっと浮かばなかったんだろう。高鞍が痴漢されて遅れるって連絡して来た日に、なんで思いつかなかったんだろう」
「あの、課長?それは…みんな同じ思いをして満員電車で通勤しています。だからそんな事までは…大丈夫ですから、結構です」
遠慮ではなく強くお断りする。上司と部下の関係を越える話だ。そこまで構われては噂にも成り兼ねない。
「うん、大丈夫だ、高鞍」
はい?