ふたりで

彼とカフェオレ




それから、毎日彼を見かけるようになった。いつも、視線を感じるのだけど、目が合うことは、あまりない。
彼は、男の友達一人と女の友達一人の、三人でいることが、多かった。どういう関係なのか気になったが、知ることなどできるはずがない。



桜の花もすっかり散り、五月になった。
ゴールデンウィークは、何処も混んでいるので、家でゆっくり過ごすことにした。まあ、幸がバドミントンサークルの合宿に行っているので、遊ぶ相手がいないということもある。
母親の手伝いをしたり、自分の部屋の片付けをしたり、だらだらに近い生活だった。
最後の日、いよいよ明日からまた授業が始まってしまうこともあって、気分を変えるため、本屋に出かけることにした。



本屋に着くと、一応教育に関する本でも見ておこうと思い、奥の書棚に向かう。
「あっ!」
向かう先に彼を見つけ、思わず大きな声を出してしまった。当然、それを聞いた彼が、こちらを向き、なんと私に近づいてきた。


「真愛、俺のこと、覚えてる?」


突然の彼の言葉に、私の頭の真っ白になった。


まじまじと、彼の顔を見つめていると、彼が優しく微笑みながら、
「やっぱりね! 覚えてないか! 大学で会っても、無視だしね。」


うつむき加減に、肩を落とした彼は、
「思い出したら、声かけて。じゃ、また。」
と、立ち去ろうとする。私は思わず、
「ヒントをちょうだい。」
と、話しかけていた。だって、今のままの情報だけで思い出すなんて、到底無理である。


彼は、
「んー、どうしようかな。」
と、試案顔。


「OK!これから時間ある?」

ぶらぶらしているだけの私は、たっぷり時間がある。でも、暇そうに見られるのはしゃくだから、カッコつけて、
「少しなら。」

彼は、にやっと笑うと、
「お茶に付き合ったら、ヒントあげるよ。俺と話せば、思い出すかもよ。」


私たちは、本屋の斜め向かいにあるコーヒーショップに入った。

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