ホテル王と偽りマリアージュ
向かい側のソファから、こっちに近付く足音が聞こえる。


「今日は仕事で会ったんだけどね。だいぶイライラしてたから、ちょっと連れてきてみたんだ。一哉らしくもなく、最初から度数高めの酒ガンガン煽っちゃってさ。俺の方が驚いた」


悪びれた様子もなく、要さんが私にそう説明する。


元々色素薄めの肌が、完全に蒼白になっていて、まるで透き通ってるんじゃないかと思った。
眉間に皺を寄せ、苦しそうな表情のまま眠る一哉を見つめた後、背後で踵を鳴らした要さんを、私は出来る限りの目力を込めて睨み上げた。
彼は動じる様子もなく、口角を上げて笑っている。


「大丈夫だよ。かなり熱烈なキスはされてたけど、そっちの方は無事だから」

「酷い……。なんでこんなとこに一哉をっ」


衝動的に立ち上がった。
手が振り上がりそうになるのを、歯を食いしばってなんとか耐える。


「言っただろ? 相当イライラしてたから。もしかして、欲求不満なんじゃないかって思ってね」

「えっ」

「最後まで理性が残っちゃったのが残念だけど、俺の読みに間違いはなかったって思うよ。昔はともかく、ここ二、三年は、この手の店の前に連れてくるだけですごい嫌がったのに、なにも言わなかったからね」
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