ホテル王と偽りマリアージュ
いつもより白く見える肌のせいか、薄く開いた唇がやけに赤く見える。


ここでこうして一哉と一緒にいるのは、一哉が混乱して私に強引にキスしてきたあの夜以来、ということを思い出してしまう。
忘れかけていた感触が唇に蘇ってくる気がして、鼓動が落ち着かない。
ドキドキと高鳴る胸を押さえながら、なんとなく自分の唇を指の先でなぞった。
それと同時に、要さんの言葉が脳裏を過る。


『かなり熱烈なキスはされてたけど』


途端に、胸がズキッと嫌な音を立てて疼いた。


それって、私が電話越しに聞いた『軽~い』キスとは違うよね。
じゃあ昨夜、キャバ嬢に何度キスされたの。何人とキスしたの。


そう思うと胸が抉られるようにグリグリ痛み、同時に腹立たしさも沸々と湧き上がってくる。
思わずギリッと唇を噛み締めた時。


「ん……」


小さな唸り声と同時に、一哉が眉間に皺を寄せながら、うっすらと目を開けた。
光の射す方向を確認するかのように、窓辺に立つ私の方に顔が向けられる。


「い、一哉!」


そのまま大きくカーテンを開けると、寝室の中が薄い日射しで照らされた。
一哉が更に強く眉を寄せ、明順応に対応しようとしてるのがわかる。
そして、何度かパチパチと瞬きをして。


「……椿っ!?」


私の姿をしっかり視界で捉えた彼が、ひっくり返るような声を上げた。
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