ホテル王と偽りマリアージュ
どこか慌てたように大きく辺りを見回し、ここが私と暮らすマンションの寝室だと確認している。
その様子の一部始終を見守りながら、私は彼のベッドサイドに戻った。


「なんで俺、ここに? あれ。昨夜、俺……」


額を押さえながら、昨夜のことを思い出そうとしている。
頭痛がするのか、何度もギュッと眉間に力を入れている。


正直なところ、一哉がどこまで覚えているのか、自分の口で言わせたい。
そんな気持ちで彼の記憶が蘇るのを待ったけれど。


「っ……」


記憶の断片に辿り着いたのか、彼は一度小さく息をのみ、そのまま私から目を逸らした。
その反応にイラッとして、私は一哉のベッドサイドで腕組みをした。


「昨夜は随分とお楽しみだったようで」

「っ、えっ?」


戸惑いに揺れるグレーの瞳が、まっすぐ私に向けられる。
それを見て、私はグッと唇を噛んだ。


「要さんから連絡もらった。『マズい事態になる前に、椿さんに引き取りに来てもらおうと思って』って」

「っ……」

「簡単にキスされるくらい酔い潰れるなんて、最低!!」


言ってしまったら、怒りと悔しさとよくわからない悲しさが胸の中で蠢き合い、気付いたら右手を大きく振り上げていた。
ベッドに上体だけ起こしていた一哉の頬に、思いっきり叩き付ける。
< 118 / 233 >

この作品をシェア

pagetop