ホテル王と偽りマリアージュ
「なにか用ですか」


自分でも驚くくらい、冷たくつっけんどんな声が漏れる。
要さんは特に気にした様子もなく、小さく肩を竦めた。


「そんな嫌がらないで。ちゃんと真剣に話しておきたいなって思っただけだから」


相手にしないつもりだったのに、『真剣に』という言葉に思いの外揺れ動く自分がいる。
黙って逡巡した私を、要さんは麻里香さんと同様にラウンジに誘った。


「あれから、どう? 一哉は」


麻里香さんの時とは違う、出入口に近い席で向かい合う。
お互いホットコーヒーをオーダーした後、要さんはテーブルに頬杖をついて首を傾げた。


「……わかってるんじゃないですか。なんでそんな意地悪に探るんですか」


この人のせいで台無しだ、と八つ当たり的な気分になって、私は刺々しい口調で呟いていた。


「つまり、溝が深まったまま、一哉はまた家に帰ってこない、と」

「わかってるなら、聞かないでください」


そう言って顔を背けた時、ウェイターがコーヒーを運んできた。
いいタイミングで会話が途切れ、私は一度大きく深呼吸をした。
ウェイターがテーブルから離れていくのを見送って、思い切って顔を上げる。


「あの。なにが目的なのか知りませんけど、ふざけてるだけならやめてください」


必死に苛立ちを抑えながら、なんとかそれだけを伝えた。
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