ホテル王と偽りマリアージュ
咄嗟にそう誤魔化したけど、むしろお義母さんに電話した時より、事態が複雑になってしまってる。
さすがにそれを、この優雅な食卓で口にすることは出来ない。


「それでかな。今回の出張が決まった時、『せっかくだから椿さんも連れて行けばどうだ?』って言ったんだが、一哉のヤツ『そのうちな』って素っ気なかったから」


それを聞いて、私は思わず大きく顔を上げた。


「椿さんに全く話してなかったのか? まあ、元々予定に入ってたわけじゃなく、急遽決まった出張だからな」


ナイフをほとんど動かすこともなく、スッと引いただけで切れるお肉を口に運びながら、お義父さんもさりげなくフォローするような口調で続けた。


「そう……ですか」


取り繕うなら、もっと他に言いようがあったはずだ。
でも私の口から漏れた声は、自分でも驚くくらい沈んでいた。
ナイフとフォークを動かす手まで止まってしまい、向かい側で二人が瞬きしながら顔を見合わせているのがわかる。


「もしかして……結構深刻な喧嘩なの?」


お義母さんも心配そうにテーブル越しに身を乗り出して訊ねてくる。
私は顔が強張るのを感じながら、なんとか必死に笑って見せた。


「い、いえ! あの、本当に。仰る通り一哉が忙しいので、なかなか二人で話す時間が取れないってだけで……」


自分で言い訳しながら、その言葉が胸に引っ掛かった。
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