ホテル王と偽りマリアージュ
「そんなこと、私じゃなくても誰にでも出来ることだよね。なのにそんな風に言ってもらっちゃうと、私、図に乗りそうな気が……」


地味に自己嫌悪に陥りながら、はは、と空笑いをした。
それでも一哉はやっぱり優しく私を見つめたまま、その手でそっと私の頬を撫でる。


「乗っていいよ。だって本当に椿のおかげだから」


頬をなぞる一哉の指の動きにドキッとしながら、私は上目遣いに彼を見つめた。
一哉はキュッと唇を引き結び、まっすぐ私を見下ろしている。


「なにを食べさせても美味しいって喜んでくれる。オペラの時もミュージカルも、そして今も……子供みたいに目を輝かせて、心から楽しんでくれる。そんな君が、朝、俺を送り出してくれる時は、いつもほんのちょっと寂しそうな目をする。……そういうの、本当にヤバいんだよ。早く仕事終わらせて、椿と一緒に過ごしたい。早くなにもかも片付けて、もっといろんなとこに連れて行ってやりたい。本気でそう思うんだよね」

「一哉……?」

「椿をここに呼んだのは、俺が留守の間、要が手出し出来ないように。本当にそういうつもりだったんだ。なのに……予想外に、君にやられた」


私を見つめる一哉のグレーの瞳に、どこか戸惑うような光が揺れる。
まだどこか混乱している様子に、私はただ彼の次の言葉を待つ。
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