ホテル王と偽りマリアージュ
「可愛い、椿。大好きだよ」


私の耳元で吐息混じりにそんなことを呟くと、一哉は私の胸の谷間にゆっくりと顔を埋めた。


「あ、ああっ……」


舌で胸の先を転がされる。
吐息にくすぐられる。
ゾワゾワする甘い刺激に身体を震わせ、身を捩って逃げようとする私を、一哉は薄い色の瞳で射抜いて繋ぎ止める。


「本音言うとね……最初の時からずっと、こうしたかった」

「え……?」


乱れる呼吸で胸を喘がせながら、涙が滲む瞳で一哉を見上げた。
情欲に揺れる彼の瞳にドキドキしながら、私は掠れた声で短く聞き返す。


「戯れで初めて君に触れた時から、ずっと。本当は君を抱きたかった」


目の下を赤く染めて、一哉がわずかに私から目を逸らした。


「自分で言い出した契約だし、理由もなしに破るわけにいかなくて。恥ずかしいけど、あの時止めなきゃよかったって、何度も後悔してた。しかも滅茶苦茶怖がらせた手前、自分からも近付けなくなって……ほんと、毎日拷問みたいだった」

「一哉……」

「要が君に馴れ馴れしいのもイライラしたし。これが所有欲なのか独占欲なのか、自分でも判断出来なくて混乱してたんだけど……。でもね、椿。こうして堂々と椿に触れるの嬉しくて、俺、結構舞い上がってる。今割と余裕ない」
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