ホテル王と偽りマリアージュ
言葉通り、どこか切羽詰まったような早口で言うと、一哉は一度ブルッと全身を震わせた。


「嘘……」


一哉がそんなこと考えてたなんて、くすぐったくて信じられない。
いつも涼しい余裕たっぷりな顔して、私を優しくエスコートしてくれた彼が。
今、私とこうしてることに舞い上がってるだなんて――。


「なんで、嘘? 疑われてるみたいで、心外だな」


素直に漏らした一言が、彼のご機嫌を損ねてしまったのか。
一哉はさっきまでよりずっと意地悪に、熱く激しく私の身体を弄り始める。


「ふあっ……!」


いつも物腰柔らかく優しくてスマートで、どこから見ても完璧な王子様の一哉が、私の全てを食い尽くす野獣になった瞬間――。
彼の瞳に、見たことのない光が宿った。


声が、手が、私の身体の上で蠢く。
彼の指先が、唇が、舌が、私の全身を這い、甘く淫らな官能に導く。
戦慄に近いゾクゾクした震えが、私の全身の至る所から断続的に湧き起こる。


「嘘、だなんて言えないくらい、俺の本気全部、君の身体に刻み付けてあげるよ」


一哉の言葉はとても不敵なのに、どこか甘美な響きを持って、私の耳の鼓膜を直に震わせる。
ドクン、と胸が疼くように大きな音を立てた。


「あっ……!!」


高鳴る胸の鼓動を共鳴させるかのように、一哉が私に体重を預けてきた。
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