ホテル王と偽りマリアージュ
ぴったりと吸い付くように重なる肌。
私に沁み入ってくる一哉の身体の温もりに、背筋にゾクッとなにかが駆け抜けるのを感じた、その時。


「椿、力抜いて。俺に、委ねて」


甘く熱っぽく、一哉が私の耳元で囁き――。


「う、んっ……!!」


彼の熱が私の身体を貫くのと、鋭く引き攣れるような痛みが脳天を突き抜けるのは、ほぼ同時だった。
くぐもった声が漏れてしまうのを抑えられない。
内臓を引っ掻き回されるような痛みに、ギュッと閉じた目尻から涙が零れる。
けれど……。


ジンジンと鈍く響く痛みが、やがて甘い疼きに変わっていく。
ありえない場所に感じる他人の熱の熱さが、私の意識から現実味を奪っていく。


ボーッと見上げた先、私の視界を埋め尽くす一哉の顔から、だんだん余裕が失われていく。
目の下を赤く染め、時折なにかを堪えるように、ブルッと身体を震わせる。


「っ、……くっ、は、あっ……」


固く目を閉じ、眉間に皺を刻んだ一哉が、どこか切なげな声を漏らした、その時。


「あ、ああっ……!」


頭の中で、なにかが爆ぜるように弾けた。


ゆらゆらと波間を漂うような心地よさ。
ふわふわと雲間に浮かぶような覚束なさ。
目の前が真っ白になるのと、意識を手放すのとどっちが先だったか――。


目覚めた時、ニューヨークの街は新年の朝を迎えていた。
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