ホテル王と偽りマリアージュ
「お、俺、実は海外勤務希望出してるんだけどさ。水沢さんもご主人に付いて、一年後にはアメリカだろ? ぜひ次期社長に話を……」

「あ、水沢さん。次期社長のスケジュール、都合出来る日ないかな? せっかくの機会だ、ぜひ直々にお会いして挨拶したいんだが」


男性社員はここぞとばかりに私をダシに使おうとする。
しかも部長や課長までヘコヘコし出した。


お願いだから、一言でいい、私にも言わせて!!


――と、一瞬本気で叫び出しそうになった時、始業と終業時にかかるなんとも呑気なチャイムが、オフィスフロアに響き渡った。
それを聞いて、私はとりあえず部長の手を振り解いた。
手の甲をお尻の後ろでスカートに擦り付け、よくわかんないけどついたような気がする『なにか』を拭ってみる。


「み、みなさん、お仕事始めましょう!」


なんとか声を張り上げて言った言葉は、とにかく真面目な一言だった。


わらわらと自分のデスクに散っていく同僚の背を見て、朝から疲れ切った気分でガックリと肩を落とす。
軽く両手を宙でヒラヒラ振りながら、私も自分のデスクに向かった。
一つ溜め息をついてからデスクに荷物を下ろすと、隣の席で同期の芙美が頬杖をついてニヤニヤしていた。


「『水沢さん』のままでいいの? 『皆藤さん』って呼ばせるべきじゃない?」
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