ホテル王と偽りマリアージュ
「四月には、外壁もホテルのロゴも取り付け終えて、ホテルとして完全なものになるはずだ。それまでに日本からの派遣社員を選定し、現地スタッフの採用を行う。オープンまでの半年で、スタッフの教育研修を行い、新ホテルに相応しいホテルマンに育てる。十月がグランドオープンだ。もちろん盛大なセレモニーを準備してる」


ホテルの状況を説明してくれる一哉の瞳は、いつもと同じ穏やかな光を湛えながらも、夢を語る少年のようにキラキラと輝いていた。
そんな一哉が誇らしく、そして仄かな憧れを心に抱きながら、私は彼にそっと寄り添った。


「一哉……」


本当は、知りたい。
彼がニューヨークで忙しく走り回ってまでなし得た『業績』がなんだったのか。
それとなく聞いてみたけど、いつもフフッと微笑むだけで交わされてしまい、詳しく教えてもらえずにいた。


今、完成間近のホテルを前にしたら教えてくれるかと思ったけれど、やっぱりいつもと同じように煙に巻かれてしまった。
ちょっと寂しい思いで唇を噤む。


彼がなにも恐れていないなら、私が心配することはないのかもしれない。
首を突っ込んで知りたがる必要はないのかも。
そう考えて、それ以上質問するのを止めた。


時折強く吹き付ける冷たい風の中、私の頬も一哉の頬も色を失って白い。
元々色素の薄い一哉に至っては、透き通っているかと思うほどだ。
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