ホテル王と偽りマリアージュ
「椿は皆藤グループ嫡男の妻だよ。女性の中じゃ、母さんの次に権力があると言っていい。社長と同席して会議の内容を知るくらいなら、文句は言わせないよ」


強気な一哉に苦笑しながらも、私は大きく頷いた。
私の反応を確認して、一哉もホッとしたように息をつく。


「俺が要を打ち落として、名実ともにホテル王になる瞬間だよ。それを、君がちゃんと見届けて」


大きく胸を張って言い切った一哉。
彼の不敵な表情に、私は今まで心強さをたくさんもらってきた。



「うん」


ニッコリと微笑み掛けながら、私は彼の方に頭を預けた。
一哉は当たり前のように私の頭を抱え込み、額にそっとキスをしてくれた。


新しい年を迎えた途端、私と一哉の距離は心身共に急速に縮まっている。
こうやって寄り添うのも、彼に触れられるのも、全てが自然で当たり前のように思える自分がいる。


だから――。


たとえ別室のテレビ会議とは言え、私が彼を見守るのは私の義務だと思う。
そして、それで少しでも一哉に心強さを感じてもらえるなら……。
もちろん私は一哉の言葉に異議なんかない。


「最初から最後まで、目に焼き付けておくから」


はっきりと、ブレない心を持ってそう返事をして、私はそっと一哉の背中に両腕を回した。


「サンキュ」


その時吹き付けた一陣の風も、全く冷たさを感じないくらい、彼の胸は温かかった。
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