ホテル王と偽りマリアージュ
帰国後、私も一哉も普通の日常に戻り、日々の忙しさに飲み込まれていった。


仕事始めで出勤すると、私は、芙美だけではこなし切れずに溜まりまくった書類の山に迎えられた。


『頑張ったけどね。これだけあるとキャパ越えなのよ~!!』


と、芙美に叫ばれ、苦笑しながら謝った。
ニューヨーク土産をちらつかせて宥めながら、例年通りに年明けの業務をこなす。


年内にこなし切れなかった仕事が多く、いつも以上に忙しい年明け。
それでも私は出来る限り、一哉と二人で過ごす時間を増やそうとした。


一哉の方は、私以上にハードだ。
ただでさえ忙しい通常業務に加え、幹部会の準備も進めている。
帰宅時間がそれほど遅くならないから、私と同じように、二人で過ごす時間を作ろうとしてくれているのは、ちゃんと感じられる。
とは言え――。


帰ってくると書斎に籠り、オフィスで捌き切れない仕事を片付ける毎日。
私がベッドに入る頃は、いつもドアの隙間から細い明かりが漏れている始末だ。


手伝わせてくれればいいのに、と寂しくなるけれど、いつも以上に真剣に仕事をする一哉を見ていると、今は踏み込むべきじゃないとも思う。


時々夜食やコーヒーを差し入れるくらいしか私には出来ない。
同じ屋根の下にいるのに、ともどかしさもあったけれど。
そんなことでも一哉が喜んでくれるから、黙って幹部会の日を迎えるしかなかった。
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