ホテル王と偽りマリアージュ
そして運命のその日――。


一哉はいつもより早く起き出し、先に一人でオフィスに向かっていた。
いつも通りに私が起きた時、ダイニングテーブルの上に『後でね』と走り書きしたメモが残されていただけ。


前もって、テレビ会議に出席することは業務申請してある。
もちろんトップシークレットの会議だから詳細は非公開だけど、課長も部長もそこは詮索してこない。
緊張であまり食欲がなく、結局ランチはスキップして、私は一哉のご両親の元に向かった。


どうやら、幹部会はホテル棟の一角にあるVIP専用会議室で行われるらしい。
私はオフィス棟高層階にある社長室のソファに座り、秘書たちが手際よくテレビ会議の準備を進める様子ををぼんやりと眺めた。


会議開始午後一時を回ると、大きなスクリーンに会議の模様が映し出された。
コの字型に配置された長テーブルに並ぶ席を埋めるのは、皆藤グループの幹部の中でも選りすぐりの重鎮十五人。
揃ってダークカラーのスーツに身を包み、風格を漂わせるおじ様たちは、日本全国で展開している皆藤グループのホテルの社長ばかりだ。


年に二回開催される幹部会は、それぞれのホテルの経営状況の報告の場でもあり、会議は彼らの報告から始まった。
発表されるのは、一社員の私が聞いていいものか不安になる機密事項ばかり。
全員の報告が終わるまでにたっぷり二時間掛かった。
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