ホテル王と偽りマリアージュ
スクリーンの中では、要さんの巧みなプレゼンが始まっている。
要さんの報告に対して、幹部会が行われている会議室でどんな反応が湧き上がっているか、スクリーンからは窺い知れない。
それでも社長室にいるお義母さんからは笑顔が消え、お義父さんが息をのむ気配が空気の振動で感じられた。


「さすが要だな。まさか本当にここまで数字を挙げてくるとは……」


素直な感嘆の声を漏らしたお義父さんの説明によると、ヨーロッパの事業展開における業績は、ここ数年横ばいだったらしい。


「ヨーロッパ諸国の主要都市には、既に皆藤グループ経営の既存ホテルが必ず一軒はある。供給過多な状況で、新規参入となると、コスト的には冒険に近い綱渡り状態なんだ。だから、業績は横ばいで上等。グループ内ではそういう意識で統一していたくらい難しい市場だ。それなのに、実質半分の期間で本当に数字を挙げてくるとは……」


要さんが着手したのは、今現在皆藤グループのホテルのない第二主要都市での海外ホテル買収だった。
下剋上宣言からの短期間で合意に達した数社については、既に仕掛中だったのかもしれない。
要さんが発表した半期実績の数字は『前期比+百八十五パーセント』。
公言通りの『二倍』には、ほんのわずかに届かなかったけれど。
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