ホテル王と偽りマリアージュ
『半期決算に間に合わなかった案件ですが、フランクフルトで実質的なオーナーとの交渉を終えました。遅くとも今期中……三月末までには契約合意の報告が出来る見込みです。この案件の数字を計上すると、今期の実績は前期比二百五十パーセントのプラス予想となり……』


報告を続ける要さんの表情が、いつもの強気さを増したのがわかる。
社長室からではわからない幹部会の反応が、彼にとって手応えのあるものだったのは一目瞭然だ。


要さんが報告を終え言葉を結ぶと、スクリーンには会議室の引きの映像が浮かび上がる。
そこに揃った幹部たちが、それぞれ隣の席の人とヒソヒソと会話をする様子が伝わってくる。
私の目にも要さんが感じた彼の『手応え』が読み取れ、私は無意識にゴクッと喉を鳴らして唾をのんでいた。


皆藤家嫡男の一哉の手中にある社長の座を、足元から揺るがす要さんの報告。
明らかに不穏だ。
その場にいる幹部たちが戸惑っている様子もよくわかる。
グループ本体のトップであるお義父さんが呟くほどだ、要さんの報告は他の幹部からも十分評価に値する実績なんだろう。


会議開始当初とは完全に流れが変わり、情勢は一哉に劣勢に転じている。
そんな空気をもちろん一哉も感じているはずだ。
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