ホテル王と偽りマリアージュ
『では、次は現アメリカ事業部総責任者の私、皆藤一哉から、ニューヨーク地区のホテル開発の現状と業務報告を行わせていただきます』


要さん以上に堂々とした低い声が、空気を裂いて響き渡った。


伏し目がちに手元の資料に目線を落としながら、プロジェクターの映像を時々見遣る一哉の姿は、これまた要さんと同様に、私が見たことのない『トップ』そのもの。
そんな彼にドキドキしながら、私は必死に報告の内容を理解しようとする。


どのくらい報告を聞いた後か、お義父さんがハッと短い息を漏らして笑う声が聞こえた。
思わずそっちに気を取られると、お義父さんは愉快そうに肩を揺らして笑っている。


「なるほどな……。一哉のヤツもやるじゃないか」

「え？」

「いや、椿さん。一哉はな、今期の実績計上という点では要に大きく水を開けられた状態なんだが……ニューヨークのホテルオープンを皮切りに、今後十年間の業績予測をプラスにする仕掛けを工作してたんだよ」

「じゅ、十年……！？」


予想外にとんでもない数字に、私はギョッとして大きく目を見開いた。
一度ソファから身を乗り出し、それだけじゃ足りずに立ち上がってスクリーンに歩み寄った。


一哉がニューヨークで走り回った結果、掴み取ったのは、まさに私と一哉が宿泊した高級ホテルの経営母体そのものの経営統合だった。
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